FRONTIER JOURNEYとは

FRONTIER JOURNEYでは、様々な領域で活躍する「人」に焦点を当て、
仕事への想いや人生哲学を深くお聞きし、私たちが大切にしている「利他の心」や新しい領域にチャレンジし続ける「フロンティア精神」についてお伝えしています。
人々の多彩な物語をお楽しみください。

Vol. 043

夫婦が恋した島
互いの経験や特技を活かし、
佐渡ならではの魅力を自ら体験し発信

メレパレカイコ代表
舘 恭志Yasushi Tachi

ブライダルプランナー
池 倫子Tomoko Ike

2023年9月22日

佐渡の北部、海沿いののどかな集落に佇む一軒のレストラン「メレパレカイコ」。古民家を改装してつくられた趣のある建物で事業を営むのは、昨年佐渡へと移住してきた舘夫妻だ。レストランを拠点とした婚礼・婚活・イベントなどのプロデュース事業を営んでいる。そして自身がひかれた島の魅力を、さらに多くの人々へ広げるために尽力している。なぜ佐渡を選んだのか、そして、二人が目指す理想の未来とはどのようなものなのか、思いのたけを語ってもらった。

直感と運命に導かれて決めた、佐渡への移住

「佐渡に試されて、めぐり合わせてもらって、今がある、そう思いますね」

ともに新潟県をルーツにもつ舘夫妻。彼らが第二の人生のスタート地として佐渡を選んだのには、妻である倫子氏の生い立ちによるものが大きい。

「私が16歳のときに父が亡くなったのですが、父の老後の夢が、海の見えるところで絵を描いて暮らすことでした。その夢を叶えられず亡くなってしまったことが、私自身の心のなかにしこりとして残っていたんでしょうね。それが、海の見える場所で移住先を探すきっかけになったのだと思います(倫子氏)」

移住先として、二人の共通の候補としてあったのが、「島」。海に面した新潟出身の二人にとって、海はある意味で当たり前にある存在。だからこそ、海に囲まれた島が良かったのだ。

「最初は沖縄もいいなとか色々考えていたのですが、やはり新潟も見ておこういうことで、最初は同じ新潟県の島である粟島を見に行きました。そして、どうせなら佐渡も見ておこうということで、生まれて初めて佐渡に渡りました。すると、夫婦共々直感的にここがいいなって感じて、佐渡移住を決めました(恭志氏)」

都会とまではいかないが、それなりの規模で産業や街が存在し、少し足を伸ばせば手つかずの自然が残る。そんな佐渡の姿に日本の縮図を感じ、移住を決めた舘夫妻だったが、それからがスムーズに進んだわけではなかった。

「佐渡への移住を決めたものの、なかなか理想とする物件に巡り合えず……。そうこうしている内に3年が過ぎてしまいました。あきらめて次にいっても良かったはずなのに、佐渡に関してはなぜかあきらめきれなかった。そして、今の家と運命的な出合いを果たしました。本当に移住する気があるのか、本当に後悔はしないのかと、その3年間、佐渡に試されていたような気がします(倫子氏)」

こうして夫妻は、導かれるように佐渡へ移住し、新たな事業をスタートしていくことになる

レストランを拠点としたイベントプロデュース事業

夫妻が現在取り組んでいるのは、島の薬膳料理を提供するレストラン「メレパレカイコ」。そしてそこをベースとして行う婚礼や婚活、イベントなどのプロデュース事業。広告業界出身の恭志氏とブライダル業界出身の倫子氏、それぞれの強みをいかした事業の形といえるだろう。しかし実は、この事業に至る背景には、佐渡が現在向き合っている課題も大きく影響している。

「移住先でもブライダル事業を続けたいと思っていました。移住してわかったのですが、佐渡には男性の未婚率が高いという課題がありました。そこを解決しなければブライダル事業が成立しない。そこで、お見合いイベントやマッチングイベントなどをプロデュースするアイデアが湧いてきました(倫子氏)」

二人が行う事業は、新たな婚活スキームといっても過言ではない。男女の出会いを演出しつつ、メレパレカイコが間に立ちながらその進展をサポートし、最終的にはウエディングまでプロデュースしてくれる。事実、その取り組みは『佐渡ビジネスコンテスト2022』で入賞するなど、周囲からの注目度も高い。

「男性の未婚率が高いからこそ、いかに島外の女性に佐渡に来てもらえるかが、事業にとってはとても重要になります。そこで、旅行会社と提携して女子旅ツアーを企画したり、佐渡ならではのアクティビティを発信して興味をもってもらったりなど、佐渡そのものの魅力を感じられる取り組みを同時進行で行っています。これは島ならではの魅力でもあり、同時に弱点でもあると思いますが、船に乗って島に渡るというのは、どうしても気合がいるものです。その一歩を踏み出せるかどうかを決めるのが、佐渡の魅力そのものです(恭志氏)」

メレパレカイコが見据えるのは、単なる事業としての成功だけではない。夫妻自身が終の棲家とすることを決めたこの地域や島を守り、継続的に発展させていくことこそが、二人の最大の目標になっているのだ。

観光資源は人のあたたかさ、そして佐渡でしかできない体験

内海府は穏やか、南部ははんなりとした雅な文化、といったように地域性が色濃く分かれる佐渡。夫妻の拠点である「虫崎」は、とにかくキャラクターの立った住民が多いという。しゃべって、踊って、呑んで、騒いで……老若男女問わず交流を深め、家族のようなあたたかい付き合いをしている。

また、虫崎には地域行事も多い。豊漁祈願の百万念仏という行事では、1日中太鼓を叩いて鐘を鳴らし、道普請という共同作業では、山林の山奥でコンクリートを固めて道をつくる。都会暮らしの人にとってはカルチャーショックを受けるような文化が今なお継承されている地域であるが、むしろ個性が尖っていて面白いという。

「マッチングイベントでは、こういった独特の文化を体験してもらう機会を設けています。佐渡ならではのライフスタイルを事前に共有することで、ミスマッチを防ぐ狙いです。都会にはない文化のある虫崎ですが、新しいチャレンジにはすごくオープンな風土があるんですよ。よそ者である私たちがカフェをつくるときも本当に歓迎してくれましたし、みんなが背中を押してくれました(恭志氏)」

虫崎のブランド力を高め、人を呼び、最終的に移住してもらう。そのためには、関係人口を増やすことが重要だと倫子氏は語る。そのキーとなるのが「メレパレカイコ」なのだ。地域に根差したレストランは、ここに来れば地域のことを容易く知ることができる。そのためにも、夫妻をはじめとする地域住民の個性を引き立たせ、知ってもらい、足を運んでもらうことを目指している。

「虫崎を知ってもらい来てさえもらえれば、絶対に好きになってもらう自信があります。人の魅力こそが観光資源だと思っているので、“この人に会うために行きたい”と感じてもらえるようPRしたい。また、地元でしか手に入らない特産品や加工品を作り、虫崎ブランドを全国に広めようという活動もはじめています(倫子氏)」

印象的だったのは、テレビ番組の取材で訪れた30代ディレクターとの出会い。彼女の来島中、毎日宴会をともにした。新鮮な刺し盛においしいお酒、入れ替わり立ち替わり遊びにやって来る地域の人たち……楽しくあたたかい宴に触れた彼女は、最終日に号泣しながらこう話したという。『すごく良かったです。人生のなかで足りないピースみたいなものが、あたたかく満たされました』
その後、彼女はプライベートでも虫崎を訪れたそうだ。一度でも虫崎の住民のあたたかさに触れた人は、その魅力に心を奪われてしまうのだ。

「ここに来てくれた人が“虫崎は本当に良いところだね”、“良かったね”と言って、口コミやSNSでその輪を広げてくれるのが一番理想です。実際、“佐渡に行くんだったら虫崎に寄ったほうがいいですよ”とおすすめしてくれたり、ヒッチハイク中の若者や日本一周している人が立ち寄ってくれたりして。そうして、“虫崎やべえよ!”と口コミをさらに広げてくれている(恭志氏)」

虫崎でしか味わえない体験、そして人とのつながりを求める若者たちが、後を絶たない。

何もないからこそ何でもできる佐渡で、新たな魅力を開拓する

夫妻の手がけるプロデュース事業は、一見、従来の婚活事業とは馴染まない。まずは佐渡に訪れてもらい、佐渡を好きになってもらい、好きな場所を見つけてもらう。その結果として、佐渡に移住したり、一緒に暮らしたい相手と出会ったりすることを目指している。

「まずは佐渡に来てみてください。そして、何かに参加してみてください、と。佐渡には都会のような商業施設はないですが、美しい棚田はあるし、自由にDIYできる空家はあるし、都会ではできない体験があふれていますよと伝えたい。一回の婚活で相手を決めるのではなく、土地と交流を持ってもらい、好きになってもらうためにも、他にはない尖がったプランを考えていきたいですね(倫子氏)」

夫妻が営むレストラン「メレパレカイコ」の語源はハワイ語で、メレは音楽、パレカイコは楽園という意味だ。「人生を豊かに楽しむ」という思いを込めて名付けられた。毎月1回、オープンマイクというイベントを開催し、音楽を愛する地域住民とともに演奏を楽しんでいる。恭志氏は「この“音楽の楽園”に浸りながら、残りの人生を満喫したい」という。

「昔から音楽をやってきたので、音に囲まれた人生を送れたらいいなと漠然と夢みていました。佐渡に移住してからは、音楽を楽しむこと自体が地域を盛り上げることにつながるんだと感じていますし、今後の人生でも音を通して楽しむ場をつくっていけたらなと(恭志氏)」

倫子氏は、何もないからこそ何でもできる佐渡という土地で、開拓していく面白さを味わい尽くしたいと語る。

「何もないところに轍をつけていく、そんな事業をしていきたいなと思っています。開拓には失敗がつきものですが、失敗しても都会のように何億という損失にはならないし、だから大丈夫って思える。そういう開拓精神のある人がどんどん佐渡に増えていって、人がつながっていけば、きっと佐渡を面白くしていけるはずです(倫子氏)」

佐渡という土地を愛し、そこに住まう人を愛する。そうして広がっていく人の輪が、佐渡を、そして日本を元気にしていくだろう。

Next Frontier

FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン

佐渡を愛する人の輪を広げ、地域の魅力を開拓していく。
編集後記

メレパレカイコに到着して高台を見上げると、満面の笑顔が私たちを迎えてくれた。まるで「おかえりー」と言わんばかりのお二人に初対面でハグしたい衝動に駆られました。佐渡という土地に魅了され、佐渡を愛する人の輪を広げるために、婚活やブライダルをプロデュースする舘夫妻が象徴するように「訪れれば必ず好きになる」という人のあたたかさや個性豊かな文化は、訪れる人の心をつかんで離さないでしょう。地域行事に古民家DIYと、モノではなくコトを存分に楽しめる佐渡。一緒に佐渡入りした取材チームも舘ご夫婦に感化され、こっそりプライベートで来たいねとつぶやいていました。これまでの人生で足りなかったピースが満たされる、そんな佐渡に何度でも訪れたいものです。

いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。

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