Vol. 020
両親への感謝を礎に、
積日の夢を実現させた
ザ・ホテルマンが進む
いつまでも挑戦者であり続ける
道のり
「HIYORIオーシャンリゾート沖縄」総支配人
石栄 良二Ryoji Ishie
2022年12月9日
Keywords
「ホテルのゼネラルマネジャーになる」——。学生のころ、ホテルを舞台にして人気を博したテレビドラマに憧れてホテル業界に足を踏み入れた新入社員が、同期の前で語った大きな夢。初心を忘れることなく歩み続けた彼は、25年後、その夢を実現させた。2021年2月に開業したラグジュアリーホテル「HIYORIオーシャンリゾート沖縄」のゼネラルマネジャー(GM)、石栄良二だ。「今度は、この場所から未来のGMを生み出していきたい」と周囲を魅了する柔らかな笑顔で語る石栄は、どのような道のりを経て抱き続けた夢へとたどりついたのか。そして、叶えた夢の先に何を描こうとしているのだろう。
「ホテルのゼネラルマネジャーになる」。
入社式で語った夢を決して忘れることはなかった
「高校を卒業してホテルの専門学校に入りました。理由は本当に単純で、当時話題だった主人公がホテルマンのテレビドラマ『HOTEL』を見て影響されたから(笑)。ホテルを切り盛りする姿がほんとにかっこよかった」
20歳で専門学校を卒業した石栄は、「神戸メリケンパークオリエンタルホテル」に就職。入社式で新入社員が自分の夢を発表する場面が訪れたとき、石栄は同期たちの前で「ホテルのゼネラルマネジャーになる」と大胆な宣言をした。
「今でも鮮明に覚えています。正直言って、そのときはGMがどんな仕事をするかなんて知らないですし、どれだけ大変かもわかりませんでした。ただ、『ゼネラルマネジャー』という響きがかっこいいな、と(笑)。それこそ、ドラマ『HOTEL』の主人公、東堂マネジャーのイメージですね。松方弘樹さんが演じられていたんですが、自分もそうなりたいと思いました」
しかし、実際にホテルマンとして働きはじめると、いわゆる“かっこいい”業務はほとんどなく、99%は地味な仕事であり、ドラマと現実は異なることに気づく。それでも、フロントやベルボーイ、ハウスキーピングなど、さまざまな業務に携わり、少しずつスキルを身につけていくなかで、石栄はホテルマンとしてお客さまをおもてなしすることにやりがいを見出した。
最初の転機が訪れたのは35歳のとき。東京からやって来た外資系ホテル出身の宿泊部長と話をしていると、何気なく「お前は本当に井のなかの蛙だな」と言われたことがきっかけだった。
「揶揄された、と感じました。ひとつのホテルで15年間働き続けていたので、確かにほかの場所のことは何も知らないと気づかされて。内心、とても悔しく、もっと広く新しい世界を見たいと思い、転職を決意しました」
その後、知人から誘われ、大阪難波の中心地、道頓堀川すぐそばにある『クロスホテル大阪』で宿泊支配人として勤務。インバウンドが伸びている時期だったこともあり、客室平均単価は高くなるばかりだった。「単価がぐんぐん伸びたのは私の力ではなく、インバウンドの恩恵がすごかったんです」と石栄は当時を謙虚に振り返る。
25年越しで舞い降りたチャンス。
飛び込んだラグジュアリーホテルでの挑戦
大阪で宿泊支配人を7年間務めたあと、次なる転機が訪れた。「難波で新しいホテルが開業するから、ホテル支配人をやってみたらどうか」と、知人にサンフロンティアを紹介されたのだ。
「この話を聞いたとき、私は42歳。20歳のときに公言した『GMになる』という夢を叶えるには、そろそろ一気に勝負をかけないと到達できないなと思いました。ホテルのトップに立つなんて未経験でしたが、次はいつチャンスが訪れるかわからない。もう来ないかもしれない。今しかない。そう思って、サンフロンティアへの転職を決めました」
石栄は未知のポジションに挑戦するにあたり、自らの見識を広げるためにやりたいことが1つあった。それは、退職してからサンフロンティアに入社するまでの1カ月、フィリピンのセブ島へ語学留学をすること。「それまでは留学する若手スタッフを送り出す側だったのですが、私もこの機会にぜひ行ってみたいと思い立って、すぐに行動に移しました」。
平日は朝から晩まで英語漬けの毎日だったが、授業のない土日は20代のクラスメイトとダイビングをしたり、滝つぼに飛び込んだりするなどセブ島の大自然を味わった。出身国が異なる人との相部屋をあえて希望し、20歳近く年齢が離れた韓国出身の若者と1カ月間を過ごしたという。年齢も国も超えて一期一会を楽しみながら、インバウンドの最盛期であり、お客さまの9割を占める外国人観光客をもてなす次のホテルでの仕事に備えたのだ。
気持ちも新たにサンフロンティアへ入社し、「日和ホテル大阪 なんば駅前」で1年ほど支配人を務めたが、ここでコロナ禍に見舞われる。徐々に客足が途絶えるという初めての経験を味わった。
そして、今度は茨城県の「たびのホテル鹿島」の開業準備を手伝い、そのまま支配人を務めることになったという。
ちょうどその頃、サンフロンティアでは1つの大きなプロジェクトが動いていた。沖縄の恩納村に、サンフロンティアのホテル事業としては未知の領域だったラグジュアリーランクの「HIYORIオーシャンリゾート沖縄」というホテルがオープンすることが決まったのだ。敷地面積やスタッフ数、売上、すべてが今までのホテルとは比較にならない圧倒的な規模だ。誰がこのホテルを取り仕切れるのか———。
白羽の矢を立てられたのが、石栄だった。
石栄は代表の堀口から直接、総支配人、つまりGMへの就任を打診された。「『HIYORIオーシャンリゾート沖縄』のゼネラルマネジャーをお前に任せたい」という言葉と共に。
「本当にうれしかったですね。25年越しの夢が叶ったわけですから。実際は『とにかくやってくれ』ということだったのかもしれませんが(笑)。でも、ただGMになっただけでは何の意味もありません。大事なのは何を成すか。ここがスタート地点なのだと決意しました」
人の心をいかにつかむか。
従業員と近い距離感でフラットな組織をつくっていく
GMに求められる資質とは何か。ホテル運営やサービスの総合的な知識、技術などはもちろんだが、石栄は「何よりも大事なのは、人心掌握です」と言い切る。
「100人、200人といる従業員のトップに立つには、彼らの心をつかむことが大切です。大規模なホテルで自分1人ががんばったところで意味はありませんから、従業員のみんなに力を貸してもらわなければなりません。そのためにも、一人ひとりに『このホテルで働きたい』と心から思ってもらい、持てる能力を最大限に発揮できる環境を整える。そして、自分と同じ考えを持つ分身のような存在を育てていく。それが、GMとしての私の仕事だと思っています」
その言葉が示すように、石栄は従業員との距離感がとても近い。一般的に、ホテルのGMはあらゆる業務に指示を出す必要があるため、従業員からすると近寄りがたい存在になってしまうことが多い。従業員にとっては話しかけにくいことも珍しくないだろう。しかし、石栄のスタイルは、こうした一般的なGM像とは大きくかけ離れている。
従業員が自分に声をかけやすいように、そして自分が従業員に声をかけやすいように。そのこだわりは、自席の位置にも反映されている。
「最初にホテルの建築図面を見せてもらったとき、建築士から『GMの部屋は一番奥でいいですか?』と聞かれたのですが、『いやいやいや、勘弁してください』と。奥まった部屋に閉じこもっていては、GMとして機敏に仕事をすることができません。
結局、フロントのすぐ後ろにあるスタッフが詰める事務所の一画にデスクを置くことにしました。この場所なら、フロントでのやりとりがすべて聞こえてきますし、従業員からも気軽に相談しやすい。トラブルがあっても自然と皆で情報を共有できる環境づくりを大切にしています」
フロント付近にいることが多いが、地下にある施設管理、植栽管理のほか、ハウスキーピングや総務、レストランなどにもなるべく顔を出し、従業員やスタッフとコミュニケーションを取ることを意識しているという。
「ホテルには、お客さまと対面することはなくても裏で支えてくれているメンバーがたくさんいます。彼らからするとGMの存在は少し遠くに感じてしまうかもしれないと思うので、毎朝バック部門の朝礼に参加したり、昼頃までは地下事務所のメンバーと仕事をしたりするなど、コミュニケーションの機会を増やしています」
忙しいときは、石栄自らレストランの皿洗い業務からフロント業務までヘルプに入ることもある。現場を知り尽くしているからこそ縦横無尽に動き回り、GMとして適切な判断をくだせるのだ。
さらに、地域住民との関係性を築くことも、GMの重要な仕事の1つだ。石栄は、地元の区長やほかのホテルの総支配人などと積極的に交流している。
「地元のみなさんの支えがなければ、ホテルの運営はできません。我々がやろうとしていることを知っていただき、一緒に地元を盛り上げていく。そのためにも、私たちができることは積極的にお手伝いしていきたいですね。この前も台風のあとに従業員で道路を掃除し、集落やビーチ付近の除草作業をしました。地元とホテルが共存共栄できる関係性を築いていきたいと思っています」
常に挑戦者であり続ける。
傲ったときから、衰退がはじまる
石栄は自分自身のことを「若葉マークのGM」だという。しかし、それは決して謙遜ではなく、自らが挑戦者であり続けることの覚悟のように聞こえる。
ラグジュアリーなリゾートホテルが数多くある沖縄で、2021年2月にオープンした「HIYORIオーシャンリゾート沖縄」は生まれたばかりの新しいブランドだ。しかし、これまでにない「暮らせるリゾート」というコンセプトは多くの旅行者を魅了し、着実に存在感を高めている。
「後発である『HIYORIオーシャンリゾート沖縄』は、常に挑戦者です。周辺には全国でトップクラスのホテルがたくさんありますから、我々は彼らを追いかけ続けなければなりません。それに、たとえ今後、当ホテルの戦略を追いかけるホテルが出てきたとしても、我々は常に挑戦者であり続けたいと思っています。もし、わずかでも自分たちがほかのホテルよりも優位に立っていると感じるようなことがあれば、それは我々の衰退の始まりです」
お客さまから徐々に評価を得はじめているとはいえ、運営方法や組織づくりなどはまだ改善点も多く、経験が浅い従業員のレベルアップもしていかなければならない。さらなる高みを目指すために、やるべきことは山積みだ。しかし、こうした状況を石栄は「伸びしろが大きい、ということですから、ポテンシャルしかない。そんなHIYORIオーシャンリゾート沖縄をみんなで一丸となって創りあげていくことは、本当に面白いです」とポジティブに捉えている。
20歳のときから抱き続けてきた夢を叶え、実際にGMになった今、石栄は「思い描いていた以上にこの仕事は楽しい」と晴れやかな笑顔で笑う。
「ホテル内のすべての仕事に精通し、仲間全員と一緒になって働けるのがGMです。自分の意思で方向性を示し、理想のホテルを目指して運営していく。これはものすごくやりがいがあります。
それに加えて、今改めて思うのは親への感謝ですね。決して豊かではない暮らしのなかで、両親は懸命に働いて私たち三兄弟を育ててくれました。長男である兄が大学進学したことで、次男の私にはチャンスはないと思っていたのですが、母は「手に職を」と言ってホテルの専門学校に行かせてくれました。父はね、車が好きだったんですよ。助手席に父を乗せたときに『こんな車に乗れるようになったんやな』とにこやかな笑顔で言ってくれて。私が自分の夢を叶えたことで親孝行をできたことが、本当にうれしいです」
この場所から未来のゼネラルマネジャーを
輩出していきたい
眼下に恩納村の真っ青なビーチを見下ろし、目の前には水平線が広がる「HIYORIオーシャンリゾート沖縄」。夕焼けの美しさも格別だ。
「こんな絶景を眺められる場所は沖縄でもそうそうありません。初めて訪れたとき、本当にびっくりしたんです。この環境で毎日働けるというのはとても貴重で、幸せだと思います。このようなチャンスをいただいたことに心から感謝しています」
自身の夢を25年越しに叶え、今までにないラグジュアリーホテルをつくり出すために全力を注いでいる石栄。彼はこの場所から次の夢を描きはじめている。
「『HIYORIオーシャンリゾート沖縄』には高いポテンシャルを持つ仲間がそろっています。まずは、全員の名前がサンフロンティア全体に響きわたるレベルまで到達したい。そして、その先の夢は、ここで一緒に働く仲間から未来のGMをどんどん輩出していくことです。この場所を次世代の人材が次々と育っていくスペシャルなホテルにしていきたいですね」
夢を追い続け実現させたGMとしての仕事。彼の夢はこれから先も色あせることなく、未来に向かって紡がれていくに違いない。
Next Frontier
FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン
“人の心をつかみ、挑戦者であり続ける。
その先に、新しい世界が見えてくる。”
編集後記
宿泊部門や料飲部門、宴会部門を統括し、また、お客さまと従業員に寄り添いながら、事業としての成長も求められる、重大な責任が伴うホテルのGM。
特別な時間と空間が求められるリゾートホテルのミッションは、お客様の笑顔溢れるご滞在体験です。同時に、スタッフの成長や幸福を達成することのチャレンジの大きさを思いました。宿泊業・飲食サービス業が、離職率がもっとも高い業界の1つだということも納得がいきます。
一方、「HIYORIオーシャンリゾート沖縄」で石栄氏が取り組んでいるように、お客さまに最高のご滞在体験を提供しつつ、同時に従業員に愛情を掛けることで、人が育ち、家族のような信頼関係で、お互いを思いやるカルチャーができていきます。その気持ちがお客様視点に立ったサービスを可能にするという好循環を創っており、取材中に滞在したオーシャン沖縄にはそのような「いい気」が流れていました。スタッフを家族のように包み込む彼の姿勢には、“いい話”だけで終わらない、経営の核心が隠されていました。
いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。
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