FRONTIER JOURNEYとは

FRONTIER JOURNEYでは、様々な領域で活躍する「人」に焦点を当て、
仕事への想いや人生哲学を深くお聞きし、私たちが大切にしている「利他の心」や新しい領域にチャレンジし続ける「フロンティア精神」についてお伝えしています。
人々の多彩な物語をお楽しみください。

Vol. 015

Webコンサルサービスで、
中小企業を応援したい。
画期的なビジネスモデルにたどり着いた
“老舗企業三代目”のフィロソフィー

株式会社エン・デザイン 代表取締役
中野 龍介Ryusuke Nakano

2022年10月28日

2022年2月、「ILLUMIRISE(イルミライズ)神保町」に入居した株式会社エン・デザイン。その名前から一般的なデザイン制作会社を想定してHPを開くと、まずは意表を突かれるだろう。サービス一覧のトップで紹介されているのは、「Rulesome(ルーサム)」という名がつけられた新しいWebコンサルティングサービスだ。主に中小企業に向けたWebに関するアドバイスから実作業まで、なんとサブスクリプションサービスの形で行うという。

この大胆な発想をビジネスモデル化した同社は、さぞかし気鋭のスタートアップ企業かと思いきや、実は代々家族経営で営まれてきた老舗デザイン会社。代表の中野龍介氏は、同社の三代目だ。家業を継ぐとは。そして仕事とは。中野氏に話を聞くと、こちらの思い込みを次々に覆す大胆な発想とビジネス哲学が飛び出してきた。

HP制作は無料。
月額2万円でPRを代行する「コンサルのサブスク」とは 

「まずHPの制作は、弊社が無料で行います。その後のメンテナンスやPRなどの業務を行う専任チームのサービスを月額2万円でご提供する。中小企業って、なかなかPRまで手が回らないのが実情じゃないですか。広報のチームすら社内になかったりする。それを月2万円でアウトソーシングできる、というサービスです」

さまざまな業種がサブスクリプションを活用する中で、ついにコンサルティングの分野まで、と驚きが先行する。それほどありそうでなかったビジネスモデルだ。
企業からすれば、月にたった2万円で広報チームが持てることになる。同時に提供する側から見れば、ターゲットとなるのは日本中の中小企業約350万社。これまでなかったサービスであるがゆえに、そのパイを一挙にとれる可能性がある、まさにブルーオーシャンのビジネスだ。

まずは、この画期的なサービスを立ち上げた中野氏と、同社の来歴を探ってみたい。
株式会社エン・デザインは、中野氏の祖父が1958年に立ち上げたデザイン会社。もちろんまだillustratorやPhotoshopなどのソフトウェアがこの世にない時代で、日本にデザイナーという言葉すら浸透しておらず、「図案家」と呼ばれていたそうだ。

「祖父が活躍していた当時は、出来上がりのイメージをプレゼンするのも手書きで、ここに写真が入って、文字はこういう感じで、と口頭で説明しながらの作業だったようです。その後、私の両親がデザイナー業を継いで、ずっと個人事業主の業態でデザイン会社を続けてきました」

「エン・デザイン」という会社を両親が営んでいる環境。当然、子どもの頃から家業を継ぐことが選択肢に入ってくるが、中野氏には「エン・デザインはデザインだけを行う会社でいいのだろうか」という葛藤が常にあったという。

「もちろん両親の影響もあったので、幼稚園くらいまでは、『夢はなんですか?』と質問されるとデザイナーと書いていたんですけど、小学校のときに図画工作の時間にあまりワクワクしていない自分に気づきはじめたんですね、これはちがうんだなと(笑)。加えて自分はひとつのことをずっと続けるのが苦手でいろいろ興味が移ってしまうタイプだったので、多分職人肌のデザイナーにはなれないなと感じていました」

コンサルティングの面白さに着眼。

がむしゃらに勉強した20代

デザイナーを目指していなくても「家業」というテーマは、中野氏の中にずっとくすぶり続ける。ただし、それが“逃げ場”となることだけは絶対に避けたいという思いがあった。 

両親からも『家業を継げば安泰、という風には思うなよ』という空気感は感じていましたし、私自身、漠然とですが経営が順風満帆な業態ではないことはわかっていました。ただ、このままでは将来的に縮小してしまう可能性が高いからこそ、自分が参画し、時代に即した形態に転換して祖父から継いでいる会社を存続させたいという気持ちは強かったですね。
今弊社の取締役をしている弟とも、最初から家業に入ると視野が狭くなってしまうので、一度は外の空気を経験しなければということは互いに約束していました 

大学では物理学を専攻。同時に、趣味のスノーボードでも海外遠征し大会に出場するほどに傾倒するなど、いわゆる“充実した大学時代”を過ごす。その後、就職の時期になると、将来家業を変革することを考え「経営的な視点」や「多角的な事業展開のノウハウ」を身につけるため、コンサルティング会社への就職を決めた。大手コンサルティング会社からも内定を得るが、早期に経営の下流から上流までを経験するため、小規模なコンサルティング会社を選んだ。そこで、コンサルティングの面白さに目覚めることに。 

「両親からすれば、『どうしていきなりコンサルに』って感じだったと思うんですが(笑)。デザイン云々とは別に、小さいころから出入りの中小企業の実情を目の当たりにしてきたというのがあります。コンサルティングというサービスを知ったときに、うちの会社が中小企業の成長をサポートできたら、それってすごく社会に貢献できるなと思ったんですよね。まずは中小企業をコンサルしていく仕事に携われば、その能力が身につくのではないか、という気持ちがありました」 

仕事は想像以上に大変だったが、数年でひと通り経営の経験を積むことができ、結果も残した。数年後にはIT企業に転職し、組織のマネジメントも経験。 

「前職で手掛けていたWebの広告モデルは、額面の大きな予算ありきで動きます。でも、ほとんどの中小企業はそんなお金は払えない。中小企業をサポートしようと思ったら、視点を変えなければいけないな、と。それで前職は辞めさせてもらって、エン・デザインを法人化しました。法人化した理由は、個人事業主のままでは大きな社会貢献は難しいと感じたから。それが2014年です」

大手企業コンサルで得たノウハウを体系化することで、安価で提供できるサービスへ

満を持して株式会社エン・デザインのコンサルティング事業がスタートするが、予想に反し、いきなり最初のクライアントとなったのは、誰もが知る大手企業。そこから面白いように仕事がつながって、その後も国内外の大企業、大組織から次々に引き合いが来ることに。
端から見ると、これ以上ない絶好調な滑り出しに見えるが、当の中野氏本人は、当初の目的とちがってきていることにずっと焦りを感じていたという。

「あれ、自分は中小企業をサポートするために会社を継いだのではなかったっけ?と。大手のコンサル料は月に60万ほどですが、それは中小企業には払えない額です。加えてコンサルティング業務は私ひとりでやっていたんですが、掛け持ちできるのって、休みなくやってもせいぜい20社くらいなんですよ」 

ここまで必死の思いで身に着けてきたコンサルティングのノウハウはある。しかし自分ひとりでは限界があり、サービスを安く提供することは難しい。

「だったら、それを体系立てて、中小企業向けに安価に提供できるようにできたらいいのではないか、と考えたんです」

ノウハウを体系立てたサブスクリプション型なら、それが可能なのではないか。試行錯誤の末、立ち上げたのが独自のサービス「Rulesome」だった。

「PRに困っている中小企業が日本に約350万社いて、私ひとりじゃとても太刀打ちできませんが、属人化している業務内容をスタッフが共有できるところまでプロセスとして落とし込めば、お客様はぐっと増やせる。350万社すべてをサポートするのも不可能じゃないなと」

通常50万円以上かかるサイト制作は、なんと無料。その後の運用も月額2万円だ。収益モデルについて、後から説明されれば「なるほど」とうなずけるが、経験だけではたどり着くことが難しい発想といえるだろう。

「この発想の大もとって、私自身がもともと売り上げとお金を結びつけるのが得意じゃなかったというのがあります。1万円の仕事でも1千万円の仕事でも、想いは変わらずにやりたい。でも見積もり型にすると、どうしても金額の差は出てしまうし、見積もり自体、業界によっては不明瞭ですよね。でも、私がしゃべることで何か減るわけでもないので、お金なんかもらわずとも自分にできることは話してあげたい。アドバイスしたい。だから、2万円という携帯代くらいで頼ってもらえるような関係性をつくって、あとはこちらが貢献的なスタンスでやってお客様に喜んでいただく、というシンプルなルールにしてしまったんです。それなら見積もりも出さなくて済む」

もちろん、慈善事業ではない。ビジネス的な勝算あっての仕掛けだ。

「Webでやるなら、既存の巨大プラットフォームにのらないビジネスモデルにすべき、という計算はありました。ホームページって横並びにあるサイトを検索するサービスなので、他の勢力に侵されることがないんです。プラットフォームに合わせたSEO対策などが必要ない。そこをあえて選んでやった、というのはあります」

これまでのコンサルティングの概念を壊す、大胆、かつ緻密な発想。それは、はるか以前から、家業を“デザイン会社として成長させること”を目指すのではなく、もっと大きな経営的視点で考え、“時代に合わせてどのように存続させていくか”を考え続けてきからこそ、着想できたビジネスにちがいない。

「私自身がもともと既存の慣習を気にかけることが苦手、という気質はあると思います。でも無鉄砲なのかというと、ちょっとちがうかな。目的の本質を見つけたら、そこに対して既定部分は取っ払って突っ込んでいくタイプではあるかもしれません」

大事なことを決めるのは、「気がいい場所」で。ILLUMIRISE神保町に決めた理由

エン・デザインが入居した「ILLUMIRISE神保町」と出会ったのは、たまたま物件を調べていたとき。まだ物件が完成する前だったが、そのカッコよさに一目ぼれしたという。

「デザイナーズ物件ということで見た目のよさはもちろんあったんですが、内見したときに『あ、気がいいな』と感じたことが大きかったんです。風水とかは全然やらないんですが、気は大事にしていまして。『気』とは何か、と分析すると、空気がジメジメしていないとか、陽の光が入って暖かいとか、風通しがいいとか、すべて清潔感に結び付くと思っています。あとは目の前が抜けていることも重視しますね。ここはガラスで前が抜けていて、千代田区にしては視界が開けているのも気に入っています」

特に大事なことを決めるときにも、そんな「気のよさ」を重要視しているという。

「一緒にエン・デザインを運営している弟と打ち合わせをするときも、まず場の『気』を大事にします。場所がいいと、考えが格段にちがってくるような気がするですね」

他者に貢献的である会社こそ、求められ続ける。「生き残る」ためのフィロソフィーとは

エン・デザインの企業HPに掲げられているのは、「世の中を幸せにする仕組みをつくる」という企業理念だ。ここまで中野氏の話を聞くと、それは決してきれいごとではない、実感が伴ったものだということに納得がいく。

「働くことは、生き残るための手段」と語る中野氏。この理念にたどり着くには、やはり実体験からくる中小企業への想いがあった。

「生き残るためには、求め続けられるビジネスをやらなきゃいけません。バブル崩壊で多くの中小企業が倒産しましたよね。当時、子ども心にも『欲が先行すると結局立ちいかなくなるんだな』ということを強烈に感じたんです。でもそのとき、他者に貢献的であった会社は、生き残っている。みんなによくしていたら、その人は敵をつくらないし、みんなから求められるから、仕事はずっとあり続ける。求められていれば存在できる。だから、私の目標は『仕事でみんなに求められ続けて、生き残ること』なんです」

そして、そんな会社のフィロソフィーは、「Rulesome」の名称にも落とし込まれている。

「『Rulesome』とは、素晴らしい(awesome)とルール(rule)を掛け合わせた造語です。世の中は素晴らしいルールでできている。そしてそのルールがすべてを構成しています。でもそれをみんなが理解するのは時間も手間もかかる。だから私たちがある程度分解してご提示して、お客様はそれを実装するだけ、というところまで整える。素晴らしいものを提供してくれる人って、結局みんなに求められる人だから」

“素晴らしいルール”は、社会に安心をもたらし、人々に幸福をもたらす。このサービスが日本を支える中小企業350万社の選択肢のひとつとなれば、この国には、もっとよりよい未来が待っているにちがいない。

「今後『Rulesome』が、企業にとって付けておけばセーフティになる『安心パック』みたいな存在になるのが理想です。昔、『イン●ル入ってる?』というCMがありましたよね。ああいうイメージ(笑)。『Rulesome』はITに限らず、“アウトソーシングできる部署”としていろんな可能性があるサービスじゃないかなと思っています」

ビジネスの方法論は時代により移り変わるが、いつの時代も「人によくすること」こそが、最強の処世術という真理。サービスでそのことを証明しようとする株式会社エン・デザインが、これからどのように世の中を変えていくのか、未来が楽しみだ。

Next Frontier

FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン

他者に貢献する人が、生き残り続ける。
みんなに求められ続ければ、存在できる。
編集後記

「コンサルのサブスク」という特異なビジネスモデルは、今後どんどん他社が参入し、一般的なビジネスとして普及していくかもしれません。しかし、ただ儲かるから、という利益のみを主眼に置くと、中小企業の現状とかけ離れたサービスとなってしまうことが容易に想像されます。
実体験として中小企業の経営を経験し、他者への貢献をフィロソフィーに掲げる中野氏、そして株式会社エン・デザインは、その点で今後も絶対に求められる企業として存在し続けるだろう――。 そう確信できた取材でした。

いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。

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