FRONTIER JOURNEYとは

FRONTIER JOURNEYでは、様々な領域で活躍する「人」に焦点を当て、
仕事への想いや人生哲学を深くお聞きし、私たちが大切にしている「利他の心」や新しい領域にチャレンジし続ける「フロンティア精神」についてお伝えしています。
人々の多彩な物語をお楽しみください。

Vol. 014

揺るぎない熱意と圧倒的な行動力で
周囲の人たちみんなを笑顔にする
凄腕デザイナーの仕事

建設部
シム ソンジュンShimu Sonjun

2022年10月21日

“デザイナー”というと、周囲とは異なるファッションに身を包み、尖ったセンスを持っているという一般的なイメージがあるだろう。しかし、「ILLUMIRISE神保町」のバリューアップ・プロジェクトのデザインを担当したシムは、むしろその反対。優しい笑顔と温かな雰囲気が印象的で、その場の空気を明るくしてくれるキャラクターだ。
とはいえ、少し話を聞くと、すぐにデザイナーらしい先鋭的な感度が垣間見える。韓国で生まれ、日本でデザイナーになるという“Journey”をしてきたシムには、デザイナーとしての揺るぎない熱意、そしてそれを実現するための圧倒的な行動力があった。

クリエイティビティを探究する気持ちが
日本に来るきっかけに

韓国、釜山で生まれたシム。そこからサンフロンティアに入社するまでには、自分では変えることのできない周囲の影響を受けながらも、自らの強い意思で人生を切り拓いてきた姿がある。

「韓国にいた頃は、建築やデザインではなく、大学で機械の勉強をしていました。特に興味があったわけではなく、韓国は受験競争がものすごく激しいので、自分の学力で入れる大学を選んだという理由です。そのためモチベーションを保てず、1年が終わるころには休学し、2年間兵役に就きました。
兵役中、『機械の勉強は興味湧かないな』と思いながら、もともと好きだった建築に関する雑誌を何気なく眺めていたとき、コンクリート打ちっぱなしの建物を見て衝撃を受けたんですね。『なんだこの格好いい建物は』と思って調べてみると、日本の建築家、安藤忠雄さんの建築だった。すぐに機械のことは頭から飛んでいき(笑)、建築を勉強したい、日本で学びたいという気持ちでいっぱいになりました」

除隊すると、シムはすぐにアクションを起こす。半年ほど日本語学校に通い、日本にある大学の建築学科への留学を果たした。卒業後は日本の企業に内定が決まっていたが、不運なことにケガをしてしまった影響で、韓国へ帰国。しかし、日本で就職をするという熱意を持っていたシムは、懸命にリハビリをしながらビザを取得し、再度来日する。アルバイトをしながら就職活動をし、念願かなって日本の設計事務所に就職が決まった。

「仕事自体は、大好きな建築や設計に関われるのでめちゃくちゃ楽しかったですね。ただ、朝起きるのは6時頃、帰宅は深夜1時頃という生活が毎日続き、とにかくハード。それでも独身のときは、自分の好きな仕事ですから問題は感じませんでした。ただ、その数年後にはパートナーができ、将来を考えるようになったんですね。働き方はもちろん、給与のこともあり、このままでは難しいと思って転職を決意しました。いくつかの建築・設計系企業の面接を受けましたがうまくいかないなか、建築・設計系の派遣会社に登録したところ、面接してみないかと紹介されたのがサンフロンティアです」

はじめて面接でサンフロンティアを訪れたときにも、安藤忠雄の建築を見たときのような衝撃があったとシムは回顧する。この出会いにより、シムの新たなJourneyがはじまる。

「不動産ということで若干警戒していたんですが(笑)、面接の担当者がすごく親しみやすい人だったこともあり、ここなら働いてみたいという気持ちが湧きました。そこで、難しいかもと思いつつも、『実際に社員が働いている様子を見せてくれませんか』とお願いしたところ、すぐに応じてくれました。
オフィスには多くの社員がいましたが、特に印象的だったのは、みんなとても楽しそうに笑顔で仕事をしていたこと。前職では一日中モニターに向き合い、笑顔なんてほとんど見たことがなかったため(笑)、びっくりしましたね。私は仕事にも人生にも笑顔や楽しさを求めるタイプなので、すぐに入社を決めました」

過去の経験を100%生かしつつ、
持ち前の行動力を発揮する
シム流の仕事術

バリューアップのプロジェクトでは、シムの所属する建設部から2名のメンバーが参加する。1人はいわゆる意匠・デザイン担当で、もう1名は法規・構造などに強い担当者だ。今回の「ILLUMIRISE神保町」のプロジェクトでは、シムはデザインを担った。

「私の主な業務は、設計事務所のデザイナーをディレクションしながら、物件そのもののバリューアップにつながる設計案をつくることです。そして、もう1名の担当者と法的に問題ないかを検証しながら、デザインを固めていきます」

シムが意識しているのは、設計事務所のデザイナーに対してディレクションを“し過ぎない”こと。前職ではディレクションを受ける立場だったため、まわりがあれこれ細かく言うと、斬新なアイデアが出なくなることを理解しているのだ。

「お互いが納得していないとクリエイティビティは発揮されません。対等な関係性を保ち、『もっといいデザインがあったら、教えてください』という謙虚な姿勢で、お互いに気持ちよく仕事ができるような環境の構築を意識しています」

また、バリューアップにはデザインのトレンドに敏感であることも求められる。シムは日本語、韓国語、英語と3カ国に堪能という語学スキルを活かし、世界中のメディアから最新の情報を常にキャッチアップしている。
そんなシムが最近注目しているのが「バイオフィリックデザイン」だ。言葉どおり「バイオ(自然)」を「フィリック(好む)」するをテーマにしたデザイン手法であり、オフィス内に人間が心地よくいられる自然環境を再現し、業務効率を高めるものだ。

「バイオフィリックデザインは、観葉植物を数多く配置し、水のせせらぎや小鳥のさえずりといった音まで再現。さらに、動線や間取りも利用者にストレスのかからないように計算します。情報収集しているなかで、目黒にあるアマゾンのオフィスでは、世界各地から約620種類もの植物を集め、自然環境を再現しているのを知りました」

ここには、シムの行動力を象徴するエピソードがある。デザインを学ぶため、どうしてもアマゾンのオフィスを見学したいと思ったシムは、社内にいるアマゾンにコネクションのあるメンバーに相談。その結果、実際に見学することを許されたというのだ。その際の学びは、「ILLUMIRISE神保町」のデザインにも取り入れたという。

「やっぱり直接見ると、想像を上回るものがありました。鳥のさえずりは雑誌からは伝わってきませんし、実際に歩かないと動線に対する工夫はわかりませんからね。
『ILLUMIRISE神保町』では、既存の階段だと、上のフロアから降りてくる人と、ビルに入ってくる人が重なるという動線上の課題がありました。そこで、既存の階段を取り払い、新たに階段を設置することにしたんですね。費用や手間はかかりましたが、利用者の利便性を考えると、バリューアップにつながるデザインだったと自信を持って言えます」

ビルの利便性向上やスマートな外観づくりだけではない
本当のバリューアップに必要なこと

物件のデザイナーとして、シムが意識しているのは、単純な利便性向上だけにとどまらない。もうひとつ重要な要素がある。それが“街との調和”だ。

「最新のデザインを取り入れたビルを建てれば、確かに格好よくなります。ただ、神保町のプロジェクトは、歴史のある街が舞台ですし、隣には100年以上も続く蕎麦店、冨多葉(ふたば)があります。そこで今回は建物の古い部分を残すなどをして、あまり尖った外観ではなく、周囲の街並みや雰囲気に溶け込むように意識しました」

さらに、プロジェクトのメンバーとともに建物とその周辺の情報を集めたところ、夜になるとこのエリア一帯は暗くなり、防犯上不安だという声も聞こえてきた。一方で、蕎麦店の上階は住居のため、明る過ぎると逆に迷惑になってしまう。そこで、シムはFrontier Journey Vol.12に登場したプロジェクトリーダーの小山とも相談し、最適なデザインを模索していった。

「『夜になるとこのあたりは暗い』と聞いたとき、『ILLUMIRISE神保町』を街の灯りにすればいいと思ったんですね。建物の外側に灯りをつけ、夜には街を明るくするデザインです。ただ、すぐ隣に住居もあり、ただ明るくすればいいものでもない。冨多葉の店主夫婦と信頼関係のあった小山と相談し、ベストな明るさや点灯時間などを考えました」

メンバーの結束もあり、神保町のプロジェクトは良好に進行し、『ILLUMIRISE神保町』が完成した。
現在では、冨多葉のお孫さんが塾に通う時に、環境に不安を感じないほどに明るい通りに生まれ変わった。

周囲にいる同僚や関係者すべてを
幸せにしたいという大きな夢

シムは、サンフロンティアに入社するきっかけになった女性と結婚し、現在は1歳になる子どもと家族三人で暮らしている。

「家に帰って子育てをするのが、今の最大の喜びです」と、シムはこの日一番の笑顔で語る。我が子を溺愛する様子がすぐに伝わってくるのも、いかにもシムらしい。人生の幸せを噛み締めているシムは、仕事を通し、自分だけではなく、世界中の誰もが笑顔になれる社会の実現を少しでも手助けしたいと語る。

「私の育った家庭があまり裕福でなかったこともあり、幼いころから自分の周囲にいる人を笑顔にしたい、幸せにしたいという想いは人一倍強いと思います。その気持ちが、私の仕事の原動力です。家族はもちろん、建設部やプロジェクトのメンバーも、私が携わったビルのオーナーさんや利用者さんなど建物やプロジェクトに関係する人、ひいては社会に生きるみんなを笑顔にするのを少しでも助けられたら、私も幸せですね。
私の子どもが大きくなった時、父はみんなを幸せにする仕事をしていたんだよと胸を張って伝えることも、もう一つの夢ですね」

取材中、終始明るい笑顔で答えてくれ、取材スタッフをも幸せな気持ちにしてくれたシム。彼の底抜けに明るい笑顔を見ていると、これから続く“Journey”においても、周囲の人々を笑顔に、幸せにしてくれるはずだと確信ができた。

Next Frontier

FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン

自らのクリエイティビティをさらに磨き上げ、
社会を元気にする仕事をしていきたい
編集後記

少子高齢化が進行する日本では、数年前から積極的な外国籍人材の登用が叫ばれています。さまざまな背景を持つ人材が集まれば、企業文化に厚みができ、多様なアウトプットを生むパワーの源になるのは誰でも想像がつくでしょう。しかし、店舗スタッフなどの一部を除き、本格的な外国籍人材の登用はあまり進んでないのが現実です。やはり、文化や習慣、コミュニケーションのちがい、また、外国籍人材に関する社内制度の構築が大きな壁になっているのでしょう。
しかし、今回の、韓国籍を持つシム氏の取材では、文化や社内制度についての話はまったく出てきませんでした。いくら彼が大らかな人物であったとしても、生まれた場所とは異なる日本で働くことに対して、戸惑いがまったくないはずはありません。彼が文化の違いの先を見据えているのは、仕事の仲間や周囲の人たち、そして大切な家族の笑顔という彼が描く世界を仕事を通して実現していく喜びがあるからなのだと感じ取ることができました。そして企業側から見れば国籍に関係なく個々人が熱意を燃やせる仕事を生み出せるかどうかが重要なのでしょう。優しくも熱意あるシム氏の姿から得た素敵な答えでした。

いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。

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