Vol. 008
老舗の佃煮店から保育園へと
生まれ変わる一大プロジェクト。
飾らず、自然体でやり遂げた
若きリーダーの物語
ビルディング事業部
中嶋 梨絵Rie Nakajima
2022年9月9日
2021年4月、築地に開園した保育園「さくらさくみらい築地」。笑顔のまぶしい子どもたちが走り回るこの場所には、70年以上続く老舗の佃煮店があり、佃煮店から保育園へと“リプランニング”が行われたのだ。“都内の一等地”、“地元の顔役である老舗店”、“法的な制約の多い保育園”と、いくつものハードルが頭をよぎるこのプロジェクトの中心となったのは、さぞや経験豊富なビジネスパーソンかと思いきや、27歳の女性。柔らかな笑顔と、育ちの良さが伝わる物腰が印象的な中嶋梨絵に話を聞いた。
経験の浅いリーダーの立場。
先輩や仲間の優しさで学びと成長が加速していく
中嶋は、新卒でサンフロンティアに入社し、現在、5年目。大学では法律を学んでいたが、父親の影響もあり、卒業後は不動産の世界に足を踏み入れた。
「父親が建設系の仕事をしていて、自宅の庭に部下や同僚を呼んでBBQをする姿を見ていたので、小さな頃から建設や不動産は身近な存在でした。子どもの私の目から見て、ガタイの良いお兄さんが家に出入りしていたので馴染んでいましたね(笑)。また、大学時代に『就活で有利になれば』くらいの軽い気持ちで宅建の資格を取ったこともあり、就職は不動産業界を選びました。女性があまり多くない業界なので、父親は心配していましたね。
もちろん私も最初は不安でしたよ。きっと体育系の男社会で、厳しいルールもいっぱいあって、みたいなイメージがあったので。でも入社してみたら、まったくそんなことはなくて、人間関係のストレスは一切なく、いい意味でギャップがありました」
中嶋が配属されたビルディング事業部の仕事は、プロジェクトリーダーとして他部署にいる専門知識を備えたメンバーをまとめ、オフィスビルのバリューアップ業務を推進すること。だが、中嶋は、それまでリーダーという立場が苦手で、むしろ避けてきた。
「正直、最初は途方にくれました(笑)。リーダーの経験がほとんどないのに加え、知識も年次もはるか上の人に対して、指示をしなければならず、しかも最初から、年次に関わらず大きなプロジェクトを任されるんですね。
私の場合、入社3カ月で2.5億円のプロジェクトを担当したのですが、建築科卒でもない私は何の知識もなく、『◎◎をまとめといて』と言われても、何をすればいいのかわからない状態。メンバーには年齢・年次が上の人しかいなかったので、質問もしづらい。とはいえ、わからないことは聞かないと仕事が回らないので、思い切って質問してみると、メンバー全員がものすごく丁寧に、親身になって教えてくれました。本当に優しかったですね。そこからわからないことはどんどん質問し、周囲に助けてもらいながら、徐々に仕事に慣れていきました」
中嶋には“助けてもらえる”という甘えではなく、年次が上の人から学ぶという姿勢があった。その謙虚で実直な姿に、プロジェクトのメンバーだけでなく周囲の仲間たちはまだ知識や経験の少ない中嶋を信頼し、多くの助言や手助けをした。
「特別な配慮をしていたわけではないのですが、“自分から積極的に学びにいくこと”は意識しましたね。学べることがあれば、私とは直接関係のないアポイントに同行したり、担当ではない仕事に取り組んだり。あとは、一番年下だったので、“伝え方”には気をつけました。(サンフロンティアのクレドである)利他の精神ではないですが、常に『相手の立場だったらどう思うか』を考えてコミュニケーションすることを心掛けました。
というとなんだかすごく大変そうな感じがしますが(笑)、職場の雰囲気は柔らかく、私自身、人と話すのは好きなので、苦労したという感じはないですね。それに、プロジェクトを通してまったく異なる業界の人たちと関われるのは楽しいです。今回のプロジェクトで、佃煮店や保育園に関わることができましたしね」
同僚や上司の協力を受け、
驚くほどトントン拍子に進んだバリューアッププロジェクト
佃煮店から保育園へとバリューアップするプロジェクトがスタートしたのは、中嶋が入社3年目のとき。計画は意外なほどスムーズに進行していった。
「最初に仲介業者様から佃煮店のご紹介をいただいたのは、私が別のプロジェクトで保育園に関わった直後のタイミング。『ワンフロアが50〜60平米以上あること』『避難経路が2方向確保できること』といった保育園としての条件が頭の片隅にあるなかで佃煮店の情報を見ていると、条件に近いことに気づいたんです。保育園の経験が豊富な先輩がちょうど後ろの席にいたので相談してみると『合うと思うよ』と背中を押してくれ、まず現地を検証する建設部に情報を回してくれました。そのうちに、今度はその隣にいた上司が、『知り合いに保育園を運営する会社の社長がいる』とさらに連携。すぐに入居の可能性を確認してくれ、先方は『築地で駅1〜2分の場所はなかなかないからぜひ入居したい』とふたつ返事で。あっという間にプロジェクトが立ち上がりました」
その後、中嶋は事業計画書をまとめ、佃煮店の事業主のもとへ売却の相談に訪れる。そこは古くから地域の方々に親しまれている老舗。周辺住民への配慮が重要で、不安の声が挙がるかもしれないという気がかりはあった。
「佃煮店のビルは住居としても使われていて、お孫さんなども遊びに来るという話を聞いており、思い出が詰まった場所だと想像しました。無事に売却していただけるのか不安でしたね。ただ、相談のなかで『保育園にさせていただく予定です』ということを説明すると、すごく興味を持たれ、最終的には喜んでいただけました。『うちの孫も入れてくれるの?』なんておっしゃたり。また、周囲に住む方々の印象という意味でも、保育園になるというのはプラスになったと思います」
中嶋たちの交渉の一方で、同じ物件の売却の相談をしている不動産会社があったが、最終的な決め手となったのは“保育園に生まれ変わる”ことだった。売却が決まると、社内の建設部の担当者と協力をしながら、詳細にわたる構造の確認を行い、建て替え工事へと進む。佃煮店の店主は、工事中に何度か様子を見に現場を訪れ、「楽しみだね」と話していたそうだ。
問題が起きても、相手の立場を
深く考えた対応によって、信頼関係を構築
ここまで順調に進んでいたプロジェクトだが、工事のフェーズで問題が起こる。近隣の飲食店から大きなクレームが入ったのだ。
「工事の粉塵や騒音でご迷惑をおかけし、怒らせてしまったんですね。もちろん最大限の配慮をして進めていましたが、工事現場の近くに住んでいるという当事者の立場に立って考えられていなかったんだと改めて気付きがありました。そこから、何度もそのお店を訪れ、建設部の担当者と相談をして、工期や時間をさらに配慮する計画を練り直し、少しずつ納得していただきました。
今も思い出すのは、粉塵でお店の前にあったお花を枯らしてしまったこと。店主は海外の方だったのですが、母国で植えていたのと同じものだったそうで、思い入れの深いお花だったんです。本当に申し訳ないことをしたと、同じものを取り寄せてお渡ししたのですが、種類は同じでもサイズが異なるとのことでした。そこで今度は専門の業者を探し、なんとか同じものを届けてもらいました。その後、『お花が咲いたよ』と連絡をいただいたときは、とってもうれしかったですね」
マニュアルにはない、これまでよりも深く“相手の気持ちを考える”経験を経て、無事に保育園は完成。現在では、その飲食店は、園児の送り迎えの前後に食事をする場所として、保護者からも人気を集めているそうだ。
「今でも、自然と保育園に足が向き、様子を見に行きます。保育園を建てる前は、細い道路に囲まれた場所なので、少し寂しいかなと感じていたのですが、実際は大通りに面していないので、送り迎えの時間でも安全なんですね。そして、人の流れが変わると、地域の空気も変わることを感じました。保育園ができる前にはなかった、子どもたちの元気な声が聞こえてきたり、送り迎えの保護者の方の人の流れを見たりすると、ものすごく小さな範囲ではありますが、地域が生まれ変わり、新しい歴史がはじまった実感があります。地域との共生や街の広がりを肌で感じられた瞬間でしたね」
不動産業界で働く女性を支えるため、
“柔らかいロールモデル”を目指す
「上からズバッと指示を出すようなリーダーのタイプではない」と自らを分析する中嶋だが、“リーダーという立場を避けてきた”という彼女にしかできない、目指す姿がある。
「サンフロンティアは、性別で仕事上の不利益になることも、逆に不自然に優遇されることなく、本当に男女が平等で働きやすい風土なので、女性比率が約40%と不動産業界のなかでも高いんです。ただ、業界全体としては女性は少なく、私もそうだったのですが『あんな風になりたい』というロールモデルを見つけるのが難しいんです。ですから、もっと経験を積んで、将来的には『中嶋さんを目指せばいいんじゃない?』といわれるようなロールモデルになりたいと漠然と思っています」
常に優しい語り口の中嶋から「ロールモデル」という言葉が出てきたのは意外な印象を受けたが、その理想像は、一般的な“いわゆるロールモデル”とは異なる、中嶋らしいイメージだ。
「もともと、人前に立つリーダーの役割が苦手な私ですから、目指しているのは、みんなの先頭で“憧れの存在”となるようなロールモデルではありません。そうではなくて、後輩に『中嶋さんもやってるんだから、私にもできる』と感じてもらい、その背中を支えられる存在ですね。“柔らかいロールモデル”っていう感じかな。そういう人がいれば、不動産業界で活躍する女性ももっと増えるはずですから」
取材中、中嶋が常に楽しそうに話をしてくれたおかげで、こちらも明るい気分になり、話に引き込まれた。きっと、プロジェクトのメンバーも、佃煮店の店主も、保育園を営む会社の社長も、飲食店の店主も、彼女の人となりに惹き込まれたに違いない。本人は、リーダーという立場は苦手と話していたが、プロジェクトを巧みにマネージメントする中嶋の姿を見ると、自然と周囲の気分を変え、モチベーションを上げる、それこそが令和のリーダーに求められる資質なのだろうと感じた。
次回の「Frontier Journey」では、佃煮店の店主へのインタビューをお届けします。
Next Frontier
FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン
“みんなの上に立つのではなく、みんなと一緒に歩みを進める
“柔らかいロールモデル”になる。”
編集後記
女性活躍推進が叫ばれ、国をあげて「女性の働きやすさ」が推進されている。働く女性のロールモデルの条件として、「仕事で成果を上げていること」「結婚や出産を経験していること」「育児と仕事を両立させていること」「管理職に昇進すること」というのが一般的だ。こうした女性を目標にして邁進するのは称賛されるべき素晴らしいことだが、一方で、身近に感じることができず、「高嶺の花」のような存在であるため、早々に諦めてしまう女性が少なくないことも事実だろう。この議論に明確な答えはないが、働き方の多様性が広がっている現在なら、ロールモデルにも多様性があってしかるべきなのではないか。今回登場した中嶋のように、これまでとは異なる新しいロールモデルの登場に期待し、Frontier Journeyでも引き続き取り上げていきたい。そして「多様性」という言葉の持つ意味についても、読者の皆さんと一緒に掘り下げて考える機会をつくることの重要さを、改めて確認する機会となった。
いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。
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