Vol. 004
「オフィス×アート」という
コンセプトが育てる
未来のアントレプレナーたち
ビルディング事業部長
小田 修平Shuhei Oda
ビルディング事業部 アートキュレーター
林 哲也Tetsuya Hayashi
2022年8月5日
テナントニーズが劇的な変化の波にもまれる現在、「アート」という新たな要素をオフィスに掛け合わせることによって生まれたのが「A YOTSUYA」だ。
再開発でふたたび脚光を浴びる“都心の中心=四ツ谷”に現れた、ニューヨーク・ブルックリンを思わせるオフィス×アート空間は、未来のイノベーターたちのビジネスを加速する“場”だった。
シリコンバレーのオフィスイノベーションを東京へ!できるのは自分たちだけ
インタビューの現場となる多彩な筆致のミューラルアート(壁画)に囲まれた「A YOTSUYA」の一室には、さながらスタートアップ企業のプレゼンテーションのような気配が漂っている。
「僕は1回しかない人生、どれだけ世の中を豊かにすることができるか、僕からどれだけ遠い世界の人にまで幸せを届けることができるかに賭けています。本音を言えば、1回だけの人生では足りないんですよ」そう言って笑う小田修平は、A YOTSUYAという“新たな価値”を東京のど真ん中に立ちあげた中心人物。射るような視線は、そのバイタリティを証明するかのようだ。
「仕事でシリコンバレーを訪れた帰りのフライトで、A YOTSUYAのコンセプトを着想しました。シリコンバレーから持ち帰ってきたアイデアはいくつかありますが、その一つが『アートで部屋を選ぶシェアオフィス』です。
僕は常々、不動産というのはもの凄いポテンシャルを持っていると感じています。シリコンバレーでたくさんのアートが描かれたオフィスに出会い、その想いはさらに強くなりました。サンフロンティアが提供するセットアップオフィスという価値に、次のインパクトを与えることができる確信がありました」(小田)
シリコンバレーで始まった、オフィス革命。数多くのイノベーションを生み出すシリコンバレー企業のオフィスは、合理性や機能性を優先してきた既存のオフィスデザインの枠を軽々と飛び越え、遊びゴコロや心の豊かさ、そしてアートをビジネスの現場に取り込んでみせた。
「彼らが追い求める次世代の価値、次世代のビジネスチャンスが、既存の枠組みの中にないことは明らかです。斬新なアイデアを生み出す“場”には、溢れんばかりのエネルギーがある。それを東京にもってきたかった。それをやるなら、自分たちしかいないだろうという気持ちでした」(小田)
アートは成功者の特権であってはならない 顧客の成長を加速させる「edgy」な空間創造
小田とともにA YOTSUYAの立ち上げを主導し、アーティストとのコラボレーションや、アートのレイアウトなどを担当した林哲也。オフィスはもとより、日常シーンにおいても欧米ほどアートが浸透していない日本において、どのようにアートを取り入れていったのだろうか。
「あらためてシリコンバレーのオフィス事例や、イノベーション企業のオフィスを調べるほどに、日本の不動産が画一的なものばかりをつくってきた側面があることを実感しました。もちろんそれは間違いではないのですが、私たちがチャレンジしなければならないのは、オフィスのファッション化、テーマパーク化、エンターテインメント化、ライブ化だと思っています。我々は“edgy(エッジィ)”なものをつくらなければいけないし、生きた空間・場・環境をつくらなければいけない。100人のうち、80人に嫌われるものをつくったほうが面白いものができる。そんな想いが共有されていました。
一方で、日本におけるオフィスアートは、まだまだ『成功者の特権』のような側面もあります。限られた経営者が何百万円、時には何億円というアートを購入し、権力の象徴のように絵を飾る。それがミューラルアート(壁画)であれば、ビルオーナーの許可も必要な場合もある。私たちがターゲットとするイノベーティブなテナント利用者様にとって、アートが“非日常”であってはいけないと思っていました」
可能性に溢れた、ビジネスイノベーターたちの日常にアートを!
その強い想いは意外にも、不動産会社だからこそ実現することができたという。
「お客様がご自身で絵を調達するのはまだハードルが高いし、運用も難しい。しかし、私たち自身がビルのオーナーですから、逆に言えば『絵を描いてお客様に貸す』ことができるわけです。それなら『自分たちでやってしまえ!』と(笑)」
「強いアートで日本を驚かせてやろう」凄腕の国内アーティスト集団との出会い
不動産オーナー自らが、オフィスビルにアートを描く…。ビルのリノベーションは順調に進み広大な白壁はそのまま、アーティストを待つキャンバスとなっていた。しかし、そこに影を落としたのがコロナ禍だった。
本プロジェクトを構想していたころ、縁あって偶然にもアーティスト兼キュレーターとして活躍する丸橋聡さんと出会いました。我々のコンセプトを話すと、「世界に通用する、アートオフィスをつくろう! 日本を驚かせよう!」と、すぐに意気投合。
「当初、フランスから世界トップレベルで活躍するアーティスト集団を招き、壁を自由に使ってアートを描いてもらう計画でした。しかし、コロナの影響は収まりそうにない。彼らを待っている間、『とりあえず壁にポスターでも貼ろうか』『美大生にアートを描いてもらおうか』と思い丸橋さんに相談したところ、『私に任せてください。日本の最高峰で活躍するアーティストの中にも、この想いに共感してくれる人がいるはずです』と言ってくれました。結果、丸橋さんの呼びかけで、限られた予算にも関わらず、国内の凄腕アーティストたちが集結してくれました」(小田)
丸橋氏本人はもちろん、彼がA YOTSUYAに集結させたアーティストは総勢9名。classicdraw、COIN PARKING DELIVERY、Frankie Cihi、Jay Shogo、Kathmi Maharo、Oli、Tadaomi Shibuya、Yohei Takahashi。日本屈指の才能が一堂に会したオフィスビル。それだけでも、そのエネルギーに圧倒される。
「真ん中をラウンジにして周囲の壁面をアートで飾りたい。少しずつアンジュレーションを付けて、見えたり見えなかったり重なったり変化を見せたい。絵に連続性があり、アーティストの思いが垣間見える物語性のあるものにしたい ——。描いていたそんな構想が、アーティストの皆さんの化学反応によって実現していくのは、本当にエキサイティングな体験でした。
そのとき感じたエネルギーは、入居いただいているお客様にも間違いなく伝わっていると思います」(林)
煉瓦、コーヒー、そしてアート 完全再現されたブルックリンが五感をくすぐる
A YOTSUYAは5つのフロアで構成されており、各階にはブルックリンの地名や観光スポットにちなんだモチーフが施されている。ヴィンテージ感あふれる歴史的な煉瓦造りの建造物や前衛的なミューラルアートで時代の先端を行くニューヨークの一角は、いかにして再現されたのだろうか。
「ブルックリンはアメリカで最も歴史ある街の一つで、オランダ人の入植地として発祥しました。19世紀には海軍工場などがあり、工場や倉庫が林立する職人の街でした。近年ではアーティストの街としても知られ、街の雰囲気はもちろんのこと、不動産価格が劇的に上がった場所でもあります。
そんな“成功した街”ブルックリンを象徴するのが、煉瓦、コーヒーそしてアート。すべて“本物”にこだわってA YOTSUYAに持ってきました」(林)
ファサードに用いられた煉瓦は、イギリスから、解体された築100年以上の家屋の煉瓦を取り寄せた。それだけではなく、美術スタッフを入れて、年代を合わせるように、施設の随所にわざわざエイジング加工を施すという念の入れようだ。「ブルックリンにある築60~70年の倉庫をオフィスにコンバージョンしたらこうなった」というものを完全再現しているところに、小田・林の鬼気迫る情熱を感じる。
「仕事にはコーヒーが欠かせません。それが美味しいコーヒーであれば、仕事も豊かなものになるはず。ブルックリンに染めるのであれば、ニューヨーカーから高い評価を受ける『Brooklyn Roasting Company』のコーヒーにパートナーになってもらおうと思いました。1階にカフェと同じ機材を入れ、グラインダーでガリガリ豆を挽く音が響き、豆の薫りが漂う。バリスタのパフォーマンスもA YOTSUYAのライブ感であり、アイデンティティーだと思っています」(小田)
四ツ谷という、都心の結節点に生まれた日本初ともいえるシェアオフィスには、ブルックリンの香りがする。踏み入れた途端に五感に訴えるその体験が、彼らの目指す「edgyな空間」の真価なのだろう。
「オフィス×アート」で未来をつくるのが、使命だと思う
A YOTSUYAから始まった、サンフロンティアの「アート×オフィス」をめぐる挑戦。この先には、どんな展開が待っているのだろうか。小田の眼は、はるか先を見ていた。
「我々のセットアップオフィスに、僕らの費用でアートを描いて貸し出す。そんな試みを始めています。アーティストが、お客様の思いやビジョンを聴いて、壁に絵を描くんです。これも不動産会社だからこそできることですし、A YOTSUYAの経験が、今後のセットアップオフィスの展開にも影響を与えていくでしょう。繰り返しになりますが、不動産が持っている力はもの凄い。それをもっと引き出して、世の中を豊かにしていく。日本をもっとエキサイティングでエモーショナルな“世界の大都市”として、2050年、2060年に残していくのが、僕たちの使命だと思っています」(小田)
A YOTSUYAに身を置いている時に感じる高揚感。それはもしかすると、「2050年の当たり前」に触れた肉体の、自発的なシグナルだったのではないだろうか。未来を見通し、可能性の海に漕ぎ出すイノベーターたちに、このような“場”が用意されている。その事実が、日本の未来を照らしているように思えた。
「Frontier Journey」では今後、アーティスト、入居する起業家、そしてA YOTSUYAをコミュニケーション拠点として盛り上げる現場スタッフに、順次インタビューを敢行する。ぜひご覧いただきたい。
Next Frontier
FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン
“長期的で本質的な正しさとはなにか。
いつでもそれを探していたい。”
編集後記
世界最大のバケーションレンタルサービスAirbnb創業者の1人ブライアン・チェスキーは、アメリカの名門美術大学、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインで美術を専攻した。最も著名な発明家の一人ともいえるジェームズ・ダイソンは、英国王立美術大学を経て、エンジアリング・デザインの道に進んでいった。また、あのスティーブ・ジョブズは、米リード大学を中退後、同大学でカリグラフィーを学びコンピューターに美しい文字の世界を創り世界を驚かせた。
「新しい価値を世界に発信しよう」というアントレプレナーたちが、アートから大きな力を得ていたことは数々の事例が証明している。ビジネスの常識である定量化や数値化ができないアートの世界だからこそ、「やってみせるしかない」。A YOTSUYAは、まさにそのような領域を切り拓き、誕生したといえるだろう。
いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。
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アートオフィスビル「A YOTSUYA」
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