Vol. 002
お客様にとっての
「世界でたった一つの宿」に
なるために
空庭テラス京都・別邸 総女将
八重田 かおりKaori Yaeda
2022年7月21日
Keywords
目の前に広がるのは東山連邦の絶景、眼下には鴨川。京都の中心部・四条河原町というロケーションにありながら天然温泉を愉しめる。これまでになかった新しい京都の旅を叶える宿が2022年6月に誕生した。
この、「四条河原町温泉 空庭テラス京都」「四条河原町温泉 空庭テラス京都 別邸」という趣の異なる2つの宿の総女将に就任した八重田かおりさん。
「まだ誰も見たことがない新しいホテルをつくりたい」という想いを抱く総女将が描いた「本物の日本の宿」と、辿り着いたおもてなしの心とは——。
「まだ見ぬ新しいホテル」を生み出す
女将の異色キャリア
「まさか自分がホテル業界に身を置く、ましてや女将になるなんて、夢にも思っていませんでした」と語る八重田氏のキャリアは、異色かもしれない。
大学卒業後、サービス業界での営業職や外資系企業でのマーケティング職などさまざまな業種、職種を経験し、ニューヨークで2年ほど飲食業のアルバイトをしながら学校に通ったこともあるという。職種は違えど、いずれも共通していたのは、「人を幸せにする仕事」を選んできたということ。そんな彼女が「四条河原町温泉 空庭テラス京都」「四条河原町温泉 空庭テラス京都 別邸」を運営するサンフロンティアに入社したのは5年前だ。
「不動産関係の仕事をするつもりで転職したのですが、ある時、会長から『今後、女性の感覚を取り入れた新しいホテルをつくっていきたい。力を貸してほしい』というお話をいただいたんです。ホテル業界はまったくの未経験でしたが、『人を幸せにする仕事であれば、ぜひやりたい』と二つ返事で快諾しました。転職早々に新しい挑戦の場をいただけたことに、本当にワクワクしました。あの時の会長のひと言が、今につながる挑戦の始まりでしたね」
入社後すぐに、新潟県佐渡市にある「佐渡リゾート ホテル吾妻(現:SADO RESORT HOTEL AZUMA)」の支配人を任された。「ついていくのにもう必死で。本当に1から勉強の日々でした」と苦笑いで当時を振り返る八重田氏だが、その過程で自身の強みを発見していったという。
「もともと旅行が好きでホテルも好き。世界を旅してきた経験を活かせるのではと思いました。また、『これまでにない新しいホテルをつくる』というミッションを果たすには新しい視点が必要。異業種にいたからこそ、お客様の目線に立って、前例のない挑戦もできると考えました」
泊まるだけの宿ではなく、
唯一無二の時間を過ごせる宿に
その後、沖縄で建設した「HIYORIオーシャンリゾート沖縄」の開業を担当。暮らすような旅を実現する滞在型ラグジュアリーリゾートホテルという新しいコンセプトのホテルの立ち上げに関わる中で、上質な旅を求めるお客様に対して特別な価値を提供することに真摯に向き合ってきた。京都に新しく誕生することになったホテルの女将を任されたのは、その手腕を買われたからこそだった。
伝統が息づき、ホテルの開業ラッシュが続く京都で勝負する。それは、これまでに2つのホテル開業に関わってきた八重田氏にとっても未知の挑戦だ。「京都の真ん中に、本物の日本の宿をつくる」というコンセプトを表現するために、八重田氏が辿り着いたのは「滞在価値をクリエイトする」という視点だった。
「一般的なホテルでは、お部屋の広さやベッドのグレードに対して1泊あたりの料金が決まります。つまり、お客様に提供するのは主に設備といったことも多いのです。それに対して、私たちが実現したいのは『宿でのご滞在自体が豊かで価値ある愉しいホテル』。お客様がホテルで過ごす時間や、ロビーや露天風呂を含めたあらゆる空間での価値をクリエイトし、最大化することが、私たちの役目です」
その考えを体現した「四条河原町温泉 空庭テラス京都」「四条河原町温泉 空庭テラス京都 別邸」は、街中にありながらも四季折々の京都の自然美や天然温泉を愉しめるという、これまでの京都になかったまったく新しい宿として開業した。
「屋上の『空庭テラス』からは、ドリンクを片手に足湯に浸かりながら東山連峰を一望できます。こんな天空の空間で京都の絶景を見られるのは当宿だけ。また、朝食は『古都の玉手箱』という京料理を詰め合わせたお弁当を、『空庭テラス』で召し上がっていただくことも可能です。古都の自然美、日本文化の美しさをこれほどまでに堪能できる宿はほかにはないと思います」
空が近く、遮るものなく迫る山々と神社仏閣。そして眼下には京都の街並みが穏やかに広がる。『空庭テラス』からの絶景は、ホテルのコンセプトでもある“インフィニティ”——まさに時代を超えた無限の美しさを湛えている。女将がホテルに込めた「滞在自体が豊かな価値を持つ」という想いが、テラスのそこかしこに漂っているかのようだ。
今後は、この天空の空間を活かしてヨガなどのイベントを企画し、お客様に特別な体験を提供していく考えだ。
お客様に寄り添える人は、
仲間を大事にできる人
自然美、温泉、京割烹料理に加えて、「日本の宿」に欠かせないもの。それは、心温かいおもてなしの心だ。滞在価値をクリエイトするうえで、何よりも大事な要素といえる。
「おもてなしの心は、いわば日本の魂。『本物の日本の宿』をつくるためには、なくてはならないものです」と語る八重田氏。千差万別のお客様の心に寄り添うのはもちろんだが、その大前提として八重田氏が日々スタッフに伝えているのが「仲間を大事にすること」だという。
「私たちが大切にしているのは『利他の心を持つ』ことです。自分のことばかり考えるのではなく、周囲を思いやり、自分ができることを率先しておこなう。それが豊かな価値を生み出すことにつながります。一人ひとりが仲間を思いやる気持ちを持っていれば、お客様に対してもどうしたら喜んでいただけるかを自然と考えられるはずなんです」
「四条河原町温泉 空庭テラス京都」「四条河原町温泉 空庭テラス京都 別邸」では、接客マニュアルは存在しない。なぜなら、マニュアル通りの画一的な対応では心からのおもてなしができないからだ。
「例えば、お客様がご高齢だったり、車いすユーザーだったりした場合、フロントのカウンターに来ていただくのではなく、スタッフがお客様のもとに近寄ってチェックイン対応をおこなったほうがいいですよね。こうした行動は、普段から温かい心を持ち、どうしたらお客様に喜んでいただけるかを自ら考える習慣がなければ、実行できません。さりげなく、奥ゆかしく気遣いをする。これは日本のおもてなしならではの良さだと思います」
「お客様の記憶に残る人」を育てていく
八重田氏が辿り着いた日本のおもてなしの心。今はそれを1人でも多くのスタッフに伝え、日本の伝統文化として受け継いでいく人材を育てることが、女将としての重要な役割の1つだ。
「お客様にとって世界でたった一つの宿になるためには、もてなすスタッフがお客様の記憶に残れるかどうかにかかっていると思います」と話す八重田氏。この考えに至るまでには、八重田氏自身の忘れられない原体験があった。
「長期休みのたびにマレーシアのリッツ・カールトンに滞在していた時期がありました。日本人のスタッフの方がいらっしゃって、予約を入れるとすぐに『今回は何をなさいますか』と連絡をくださるんです。滞在中も常に気にかけて温かいおもてなしをしてくださって。大好きなスタッフの方でした。今思えば、彼女に会うために何度も訪問していたんですよね。私が目指す女将像の原点といえる存在です」
自分自身が受けた唯一無二のおもてなしを、今度は自分たちがお客様に対して届けていきたい。その揺るぎない想いが、八重田氏の原動力となっている。
想いを日々スタッフに伝えることに加え、お客様の記憶に残るようにと、宿の至るところに思い出づくりにつながる工夫をちりばめているそうだ。
「例えば、お食事を召し上がるときのナプキンにお着物を着させたり、エントランスにほんのりと香を漂わせたり。本当に小さいことなんですが、お客様の会話のきっかけになれたらうれしいですよね。また、スタッフの制服に水引をあしらったり、手鞠のかんざしをつけたりしているのですが、気づいたお客様が『あら、かわいい』と声をかけてくださることもあるんです。お客様との接点を増やして、印象に残るおもてなしにつなげていけたらと思います」
スタッフ全員のお母さんみたいな存在に
「四条河原町温泉 空庭テラス京都」「四条河原町温泉 空庭テラス京都 別邸」で働くスタッフは約50名ほど。お客様に「ここに泊まって良かった」と思ってもらえる宿をつくるためには、スタッフ一人ひとりがどれだけハッピーに働けるかが大事になってくる。
「そのためにも、私自身が動きまわってみんなの顔を見て、変化や成長に気づいてあげたいですね。ホテルで働く人たちは、誰かに喜んでもらえる仕事が本当に大好きな人たちばかり。だからこそ、みんなが最大限の力を発揮できるように、『ここで働けて良かった』と思ってもらえる環境をつくることが今の私の一番の夢です」
八重田氏にとっての理想のホテルづくりとは、人育てそのもの。この場所で育った人が、いずれは新たな場所で理想のホテルづくりを追求していくに違いない。
お客様にとっての世界にたった一つの宿をつくる。八重田氏の挑戦はこれからも続いていく。
Next Frontier
FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン
“お客様の記憶に残るホテルを、
これからも生み出していく。”
編集後記
「四条河原町温泉 空庭テラス京都」そして「四条河原町温泉 空庭テラス京都 別邸」に身を置いていると、八重田氏の存在はやはり、総支配人ではなく“総女将”でなくてはならないと、得心した。
明確な価値観をもち、采配する芯の強さ。視覚や味覚だけでなく、すべての五感でお客さまをもてなす細やかな気配り。そして、グローバルな経験が裏打ちする、日本の伝統文化への素養。女将という要があるからこそ、『お客様の記憶に残るホテルをつくる』という大きな挑戦が、着実に前進していると感じた。印象的だったのは、スタッフとの距離がとても近いこと。その人懐こい笑顔と、「スタッフ全員のお母さんみたいな存在に」と語る彼女の存在感が、ホテルにとって必要不可欠な“人の力”を大きく高めているのだろう。 日本発の新たなラグジュアリーホテルがつくる、新たな体験、新たな感動に注目が集まる。
いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。
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