FRONTIER JOURNEYとは

FRONTIER JOURNEYでは、様々な領域で活躍する「人」に焦点を当て、
仕事への想いや人生哲学を深くお聞きし、私たちが大切にしている「利他の心」や新しい領域にチャレンジし続ける「フロンティア精神」についてお伝えしています。
人々の多彩な物語をお楽しみください。

Vol. 001

土地の力を活かし、
再訪せずにはいられない
絶景を生む

建築家
池田 千博Chihiro Ikeda

2022年7月14日

土地の力を活かす——。建築家・池田千博氏は、何度もその言葉を使った。

目の前に広がる景色のポテンシャルを引き出し、まだ誰も見たことがない絶景を生み出していく。和のリゾート建築の第一人者として知られる池田氏は、これまでに山口の「大谷山荘 別邸 音信」、伊豆の「伊豆ホテル リゾート&スパ」や「東府や」、新潟の「赤倉観光ホテル」といった数々の絶景宿を設計してきた。

そして、2022年。新たに誕生させたのが「四条河原町温泉 空庭テラス京都」「四条河原町温泉 空庭テラス京都 別邸」だ。京都に生まれた新たな絶景は、5年前に見た景色から始まった。

京都にこんな景色があったのか

「当時この場所に残っていたビルの非常階段を10階まで登りきった瞬間、私は息をのみました。こんなに素晴らしい景色が京都にあったのか、と。もしかしたら、京都に住んでいる人でさえ知らないかもしれない。まだ誰も見たことがないであろう景色が、目の前に広がっていたんです」

京都の四条河原町につくる新しいホテルの設計の依頼を受け、はじめて現地を訪れたときの印象を池田氏はこう語った。

京都では建築物の高さ制限により、鴨川より東には高層ビルがない。そのため、目の前には一切遮る建物がなく、東山連峰と青空が視界いっぱいに広がっている。清水寺、八坂神社などが一望でき、眼下には鴨川と祇園の街。心地良い風を感じられ、京都の中心部にいることを忘れてしまいそうな景色だった。

「こんなに素晴らしい場所にホテルをつくれるのか、と胸が高鳴りました。『高さ制限ギリギリの地上31mの場所に天空のテラスをつくって新しいホテルの主役にしよう』と、すぐにインスピレーションが湧いたんです」

単なる展望デッキや、一部のプレミアムゲストだけが利用できるラウンジではなく、宿泊するすべてのゲストにこの景色を見てもらいたい。そして、シャンパンなどのドリンクを飲みながら足湯に浸って、天空の庭で特別な時間を過ごしてもらいたい———。

池田氏の頭の中で、「空庭テラス」のイメージが形になっていった。

視界を遮ることで、景色は輝く

エレベーターで「空庭テラス」がある9階に上がると、まず目に飛び込んでくるのは京都の路地のような背の高い回廊。緩やかなカーブを1歩ずつ空に向かって歩いていくと、回廊を抜けた瞬間に視界がぱっと開け、気がつけば東山連峰の大パノラマの中にいるのだ。

「景色というのは、必要以上に見せないほうがいいんです。景色の一部を切ることで、本当に印象の強いものを引き出すことにつながる。視界を絞ることで景色は輝きを増し、印象的な絶景が生まれます。『空庭テラス』も回廊で視界を遮ることで、屋上に出た瞬間に大胆な景色が目に飛び込んでくるように設計しました」

目の前に広がる景色を絶景へと変える仕掛けは、館内のフロントや露天風呂でも用いられているという。

例えば、地下から源泉をくみあげた露天風呂「八坂の湯」は、湯船に入った状態で外を見たときに景色が浮かんでいるように見え、無限の空間を感じるような“インフィニティ”の設計に。また、フロントのパノラマ窓の外には水が流れていて建物と景色の境界がなくなり、遠くの山々が間近に広がっているかのように感じられる。

「景色を切るときは、人工的な建材ではなく、水面や木など自然の材料を使います。風が吹くと水面が揺れ、静かに空が映り込む。木々は、背景の自然と違和感のない一体感をつくってくれる。2つのホテルのそこかしこに、絶景がより輝くような工夫を凝らしています」

旅で一番印象に残るシーンをつくりだす

「四条河原町温泉 空庭テラス京都」「四条河原町温泉 空庭テラス京都 別邸」に限らず、池田氏は新しい建築の設計を考えるときはいつも、「土地の力に動かされている感じがする」と語る。

「その土地にしかない景色、自然の恵み、街や人のパワー。これらが、その場所につくるべき建物を示してくれます。その土地が元来持っている力を引き出し、活かしていくのが、建築の役目。そして、訪れたゲストにとって一番印象に残る景色をつくり、旅のハイライトとなるイベントを提供する。ホテルに到着した瞬間に『今日はここに泊まれるのか!』と期待が膨らむような場をつくることが、リゾート建築に求められたミッションといえるでしょう」

例えば、以前に池田氏が手がけた箱根のベーカリー「Bakery & Table 箱根」では、芦ノ湖を一望できるレストランを併設し、元箱根温泉の源泉を引いて足湯に浸かって軽食を食べられるアイデアを提案。「温泉に浸かれる絶景ベーカリー」としてたちまち話題になった。

「日帰りで訪れても『箱根の温泉に浸かったよ』と言える。絶景、温泉、グルメ。箱根の魅力をすべて漫喫できる旅ができますよね。その場所の魅力を知ってもらうためにどんな過ごし方をしてもらいたいか。どうしたら喜んでもらえるか。ゲストの旅の最終目的となるために何が必要かも含め、ソフトもハードもセットで提案することを大切にしています」

五感で自然美を感じ、心からくつろげる
「本物の日本の宿」に

「四条河原町温泉 空庭テラス京都」「四条河原町温泉 空庭テラス京都 別邸」の設計において、最終目的となるべく池田氏がこだわったのは、世界から京都を訪れる旅行者のみならず、日本人にとっても憧れの対象となる「本物の日本の宿」をつくることだったという。

「京都は、何度も訪れるリピーターの方が多い場所。代表的な観光地はもう十分に知っていて、街も歩き尽くしているので、むしろ部屋でゆったりとくつろぎたいという方も多いのです。こうした“目利き”の方々に満足していただける四条河原町の宿とは何か。辿り着いた答えが、絶景があって天然温泉があり、日本の美を随所で感じられる『本物の日本の宿』でした」

東山連峰を望む棟を『別邸』として露天風呂付のラグジュアリーな客室を設けたのも、“目利き”のリピーターの感性をくすぐる体験を狙ったからだ。
室内は天然木の床や畳、土壁などさまざまな素材が用いられており、日本の自然美を五感で感じることができる。素足でくつろぎ、天然温泉を堪能し、繊細な京料理に出会う。池田氏がつくりあげたのは、ゲストが滞在中に過ごす時間までも演出する理想の日本宿なのだ。

「ラグジュアリーホテルや高級旅館のゲストは多くがリピーターの方です。そのようなホテルには、『違う季節に再び訪れたい』と感じさせる“心に残るシーン”があります。四季折々の美しさを持つ京都はそのようなシーンに溢れていますし、旅を知り尽くした日本の旅行者の方こそ、『別邸』のリピーターになっていただけると信じています」と、池田氏は自信をのぞかせる。

1つの成功が、次の理想のホテルにつながる

現在、池田氏はサンフロンティアが展開する次なるホテル開発のプロジェクトに取り組んでいるという。場所は、新潟県の佐渡島。世界遺産への登録を目指す佐渡島は上質なリゾートホテルのニーズが高まっているのだ。

「『空庭テラス』を1つのブランドとしてコンセプトを受け継ぎ、佐渡島の土地の力を引き出す新しいホテルをつくりたいと考えています。あとは箱根にもぜひ開業してもらいたいと、サンフロンティアの堀口会長には相談しているんですよ(笑)。京都、箱根という日本を代表する土地に加え、これから注目を集める佐渡島で展開することができれば最高ですね。『わざわざ行きたくなるホテルをつくる』というのが、これまでも、これからも、私が追い続ける夢です」

1つのホテルが成功すると、「次はもっとこうしたい」「こういうホテルをつくれないか」という声が各所から集まってくるという。すると、新たなホテルづくりに挑戦する機会が生まれる。土地の力を最大限に活かして成功事例を積み上げていくことが、池田氏自身の「Frontier Journey」につながっていた。

和のリゾート建築の巨匠が次にどのような絶景宿を生み出すのか。そして、旅の愉しみ方をどのように変えていくのか。今はただその日が訪れるのを待ちたい。

Next Frontier

FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン

絶景で土地の力を引き出し、
目的地となるホテルを生み出す。
編集後記

日本で最もインターナショナルな観光地のひとつ、京都。そこに5年の歳月をかけ生み出された「新しい日本の宿」は極めて印象的であると同時に、象徴的に映る。伝統的な建築技術や意匠を取り入れながら、そこにあるのは単なるモダンを超えた普遍性に他ならない。池田氏が“インフィニティ”と表現するそれは、視覚的な感動だけにとどまらず、五感すべてに気を配ることで生まれた体験だ。
2021年、世界経済フォーラム「旅行・観光競争力ランキング」で日本が初めて首位に立った。“新しい日本の宿”四条河原町温泉が持つ普遍的なコンセプトは、ポストコロナの新たな観光シーンの中で、次世代のホテルの姿を世界に向け宣言しているように思えた。これからインバウンド需要が再び活況をみせ、世界から多くの人々が日本を訪れるだろう。新しい日本の宿を存分にお楽しみいただきたいものだ。

いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。

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関連先リンク

建築家・池田 千博氏が新たに誕生させた「四条河原町温泉 空庭テラス京都」

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客室にラグジュアリーな露天風呂がある「四条河原町温泉 空庭テラス京都 別邸」

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